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「……来てたのか、美羽子」 つい先程その存在に気がついたように振舞うが、恐らく意味など為さないだろう。美羽子は気配に敏い。 簡素な室内、設えられた小さな丸椅子に座った美羽子は、膝の上に置いた両手が白くなるほど握り締め、ベッドに横たわった俺を勁い目でぐっと睨みつけている。 病院の一室だった。 試合を終わらせることは出来たが、連日溜まった疲労が身体を押しつぶすようだった。 結局試合を終えたその足で病院へと運ばれ点滴を打ち、今夜は入院するように、と医師にきつく言い渡された。 ――もちろん明日の試合には出るつもりだ。医師が止めようと振り解いて行く気でいる。 ただ、今は休養が必要だった。 たとえ短い時間であろうと、己の身体は睡眠と安静を欲している。だがそれ以上に穴の開くほど見つめられる視線が痛かった。 聡一郎は疲れた顔に無理矢理笑みを浮かべる。 「医者と話をしたろう、大したことはない。今夜一晩休めば大丈夫だ」 それでも美羽子は険しい顔つきを崩すことはない。聡一郎は深いため息を吐く。 こうして顔を合わせるのは実に二ヶ月ぶりだった。せめて笑顔のひとつでも――単なる気遣いだとしても――見せてほしいと思った彼を誰が責められるだろうか。 美羽子と結婚するまで、聡一郎は恋人に事欠いたことはない。 誰もが羨むような美人とも、資産家の娘とも付き合った。 そんな中、しかし聡一郎が結婚したのは、友人につきあって試合を観に来ていた学生の美羽子だった。 周囲の誰しも彼の選択に驚き、そして反対した。美羽子と十近く年が離れていることもあり、賛成する人間を数える方が余程楽な有様だった――お前にはもっと相応しい人がいるではないか、と異口同音に。 それでも聡一郎は美羽子を選んだ。 けれどもしあの時結婚したのがあの人ならば笑顔で労わってくれただろうか、あの人なら泣いてくれただろう―― 疲労に霞んだ意識にそんな思いがよぎったその時、 「今日の試合、本当にすごかったわ」 呟く声に顔を上げる。 勁い視線はそのままに、唇を噛み締める美羽子がいた。 「あんなにたくさんの試合をこなして、疲れているのは当たり前なのに、でも」 ひとつ言葉がこぼれる度に細い肩が揺れる。 「あなたは誰よりつよくて、誰よりも楽しそうだった。……止めることなんて出来ない」 試合中に、そして勝利後に歓声を浴びることは当たり前のことだった。 しかし美羽子は、誰も関心を寄せることのない地味なトレーニングにばかり顔を出した。 見ていてもつまらないだろう、といくら言っても、試合のために努力する姿が何よりかっこいいのだと言って譲らなかった。 ひとつの結果を生み出す幾千の下積みを認め、信じてくれた。 その笑顔が、真っ直ぐな瞳が、どれだけ力になっただろう。 どんな時も美羽子は揺ぎなく聡一郎の味方だった。 「だって誰より試合をしているあなたを見たいのは、私なんだから……!」 勁い瞳は、もう、見えなかった。 いつしか試合に出て勝つことは美羽子を喜ばせることと同意義になっていた。 だからこそ欠場はするまいと思い、無理を重ねた―― 声を上げまいとしてこぼれ落ちる鋭い嗚咽が愛おしくて、聡一郎は震える肩ごと美羽子を引き寄せた。 黒目勝ちの瞳を彩っていた雫が聡一郎の指先を濡らす。 結婚を申し込んだあの日にも美羽子は泣いて、同じように涙をぬぐったことを思い出していた。 君の瞳はあの頃と変わらず綺麗なのだと言ってしまえたら、ああどれだけいいだろうか。 誰より美羽子に惚れ込んでいる自分を深く自覚しているからこそ、自尊心が邪魔をして、結局俺は口を閉ざして美羽子を泣かせてばかりいる。 「心配ばかりかけてすまない」 すすり泣きに変わる頃、ようやく言葉を絞り出した俺に、美羽子は眩しい笑顔をくれた。 「あなたの奥さんになる時に、とっくに覚悟はしてますからね」 妻もまた、大きな選択をもって俺を選んでくれたのだ。――視界が滲んだ。 腕の中の僥倖に、聡一郎は感謝をこめて唇を寄せた。
by noichigokoro
| 2008-06-03 22:42
| SS
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