おびただしい数の蝋燭だ。
灯されている、歩く速度の風にさえ揺れ動く小さな炎。
不思議と音のない場所だった。
目を閉じれば、溶け出す蝋の流れ落ちる音さえ聞こえるようだ。
「…少しは態度を改める気になったか?」
振り返れば、いつも通りの冷え冷えとした一対の瞳が私を見下ろしていた。
むっと熱された空気が、呼吸するたび胸をじりじりと焦がす。
視線を手元へ戻した。
背の高い蝋燭に囲まれて、頭一つ短くなった蝋燭はどうにも窮屈そうに見える。
「消滅したくなければ、せいぜい真面目に仕事するんだな」
足音高く立ち去るカラスの背を目で追いながら、頭の中に響く己の声を反芻する。
――最期に、何か思い残すことはありませんか?
彼女のように感謝をあらわす家族もなく、彼のように命を賭して守る友達も持たず、また彼女のように生きていてほしいと願う相手もない。
私の、思い残すこととは何なのだろうか。
また少し背の低くなった蝋燭の炎を見つめて、帽子を深く被り直した。