ソファに投げ出された長い足を見つけ、オレは漸く肩の力を抜いた。
「――やってくれたな、あの女」
白い指で弄んでいた写真を優美な仕草で宙に投げる。
「まさかまたこっちへ戻ってくるとはな……計算外や」
「マック・・・」
お前がそんな顔をする必要はないのだと、喉まで出かかった言葉を押し留める。
どれだけ些細な依頼であろうと、後処理を必ず行う。それは全員で決めたことではなく、いつからかマックが行っていることだ。後処理と言えば聞こえは悪いが、依頼主の後日が前向きのものであるようにと、一定期間見守るものだった。
あの母親は、あの後エイトの父親と決別――疎遠になっていたらしい両親と和解し、エイトを連れてこの街を出ていったのだ。
それを見届けて後、マックはエイトの形跡を辿る事を止めた。
「それが数年で戻ってくるんか・・・堪忍やで」
「・・・さっきまでジョニーが吼えとったぞ」
「せやろな」
最年少のジョニーは穏やかな天然キャラで面倒見も良く、喧嘩っ早いエースのように暴力に訴えるようなことは滅多にない。
それが、ことエイトに関わるとあれだけ感情を爆発させる。
「――お前、それが分かっとってああ言うたやろ」
返答はなかったが、沈黙こそ雄弁な答えだ。
頭は切れるが、どこまでも不器用な表現しか出来ない男に、知らず微笑が浮かんだ。
ローデスクに積まれた写真、その一枚が滑り落ちる。
映る8人は一様に笑っていた。
エイトと過ごした、わずか数週間。
それは時の経過と共に色褪せるにはあまりに鮮烈で、かけがえのない日々だった。
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