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すでに馴染みとなった、坂の上に在る古本屋。
美由紀は主に本を返却がてら、座敷で教科書を広げていた。
本屋の主に勉強を見てもらっているわけではなく、勉強の場所を提供された呈だ。
つまりは自習である。
美由紀は当初、これ以上お邪魔はできないと固辞したのだが、しかし勉強するよう勧めたのは京極堂だった。
――榎さんのところじゃあ、ロクに勉強もできないだろう
――私がここにいると、探偵さんが来るのでは?
――今は本家に呼ばれて出かけているからその心配はないよ
――ですが
――あら、美由紀さん。こんにちは
――こんにちは、千鶴子さん。お邪魔しています
――今お茶菓子を買ってきたところなの。お時間よろしければ召し上がってくださいな
……そうして巧いこと中禅寺夫婦に留められ、美由紀は座敷で勉強をしている。
しかし実際勉強をはじめると、中々どうして勉強が捗った。
周りに道路も民家もほとんどない為、喧騒などとは縁遠い。
少し離れたところに居る主が書見に載せた本のペエジを繰る音しか、聞こえない。
まるで図書館のようだ、と美由紀は思った。
縁側に目をやると、猫らしくない猫がだらしなく横になって、欠伸をしている。
ああ、いい天気だ――
ふと、秋彦は顔を上げた。
鉛筆を走らせる音が聞こえなくなったからだ。
案の定、美由紀は机に向かったまま、うたた寝をしている。
こくり、こくりと舟を漕いでいる様子が微笑ましい。
秋彦はふ、と息をつくと、奥にいる千鶴子に声をかけ、上着を所望した。
「疲れているのかしら…」
「榎さんの相手をするのは疲れるからね」
美由紀の背にカーディガンをかけてやりながら、千鶴子が微笑んだ。
「でも、美由紀さんは嬉しそうよ。榎木津さんも」
秋彦はため息をついた。
「美由紀君は聡いから、自分で対処するだろうが――」
「――まるで、娘を心配する父親のようですわ」
くすと笑われて、秋彦は憮然とする。
縁側の猫が、またひとつ欠伸をした。
美由紀の心地よい眠りは、もうしばらく続きそうだ。
~了~
【Written by Mycontrol】
~蛇足~
榎さんはいずこへ(知らん
京極堂が美由紀ちゃんを引き止めたのは
千鶴さんがも少ししたら帰ってくるのを知ってたからです。
美由紀ちゃんは中禅寺夫婦のお気に入りv(勝手に設定
うたた寝する美由紀ちゃん……絶対かわいいって!!
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