「――ヒマすぎる」
本日累計10回目のセリフを吐いた私は上半身を窓側に向かい直し、溜息をついた。
景色だけは無駄にいい病室は、しかし二週間もいれば見飽きて何の感慨も与えない。
むしろどれだけ田舎に自分が住んでいるのかを改めて思い知らされるほど闇を照らす街灯が少なく、夜に沈む街の姿に余計鬱々とした気分にさせられるのだった。
市内で一番大きな総合病院の最上階に据えられた特別個室――と、聞こえだけは仰々しいVIP対応の様相を呈してはいるが、そもそもは合併で市になっただけの元・町立病院であるし、この部屋に放り込まれた理由は単に一般病棟に空きがなかっただけという味もそっけもない理由だ。
町会議員である父(これも自動的に市会議員になると言うのだから笑ってしまう)の手が回ったとかどうとか看護師の誰かが言っていたが、それもどうでもいい話だ。
病院にいるという事実は全く変わらないのだから。
私が入院してこの病院に貢献したことがあるとすれば、入院患者の平均年齢を若干下げたことくらいか。
それも大した貢献ではないな・・・そろそろ30だし。
鬱々した物思いにふけって遠くを見ていた目が更に遠くなった時、
ガラッ
「、なん」
10年前、最後に会った時から全然変わらない顔が
「よう。」
手術の同意書書く前にキュンチャー固定にするよう意地でも頼み倒すんだった!!!!何で選りによって創外固定にしやがった原田の馬鹿医者野郎!!これじゃ逃げら、
「本当に骨折してやがんの」
ドアの外に立ったままにんまりと笑う顔。
「~~~うっさい!何しに来たのよっ!!」
羞恥で顔に上った血があっという間に全身に廻って怒りに変わる。
だいたい勝手に仕事見つけて10年前に勝手に出てったのは一体どこのどいつだって、
「お前が呼んだんだろ」
「は、」
「助けてくれって連絡してきたのお前だろ」
二週間前、交通事故に遭った。
運転席側に突っ込んできた相手の車とめちゃくちゃになったドアの間に右足が挟まれて、レスキュー隊が来るまで全く身動きが取れなった。
痛みは感じなかった。
痛みよりも自分の体を自分の意思で動かすことのできない恐怖と、逃れようもない目の前の現実――見たこともない方向にねじ曲がった自分の身体を信じたくない逃避とで、痛みを感じることなど出来なかった。完全にパニックへと陥った頭で、目一杯伸ばした指に触れた携帯電話で真っ先にかけた先は――
「電話出た瞬間心臓止まるかと思ったぞ……お前全然俺の言うこと聞かねーし、途中で電話切れるし、家にかけてもケータイかけても繋がらねえし」
あの後私は気絶して、次に気がついたのは病院のストレッチャーの上だった。そのまま入院したから家には帰っていないし、ケータイなんて当の昔に充電切れたまんまで放置だ。
「仕事抜けられないから、ヤッさんに連絡してとにかく無事だってことだけ聞いて」
なんでそんな憔悴しきった顔して、第一アンタ県外で仕事してるのにどうして――
ヤワな丸イスがみしりと悲鳴を上げる。
「心配させんな……馬鹿野郎」
顔が真っ赤で、目も真っ赤なのはアンタが傷のある頭を思いっきり撫でたからだって言い張ってやる。
だから言い訳するまでは、思いっきり、10年分――胸に詰まった分だけ泣いて困らせてやる。