「ラプンツェルって知ってる?――はいコーヒー」
「お伽話の?もちろん――気が利くね」
「あれって、身重の母親が『どうしても魔女の庭にできているラプンツェルが食べたい』と言ってきかなくて、困り果てた父親が仕方なしにラプンツェルを採りに行った所を魔女に見つかって『生まれた子を差し出せば許してやろう』って言われるんだよね。
子どものために行ったのに、正に本末転倒だよ」
「でももしそれが、周到に計画された展開だったらどうする?」
「え」
「もしかしたら子どもの父親は別にいて、バレては困る――とかね」
「そんなダークな……」
「何言ってんだい、お伽話なんて生易しいもんだよ。不幸でも幸せでも、ちゃあんと"めでたしめでたし"が決まってるんだぜ。
非情なシャバには句点なんかありゃしないんだか、ら――」
「じゃあ、さっき君が飲んだコーヒーで、ひとつシャバに句点がついたってことだ。
現実は非情である――ってね」