煌くネオンも繁華街の喧騒も、この部屋には無関係であるらしかった。
「どいつもこいつも自分の意見ばっかり振りかざして、それでいて他人のことなんてこれっぽっちも気にしてなんていないんだわ。そう思わない?」
この仕事を始めて、決して日の浅くない自分。
今まで数え切れないほど客を取り、さまざまなお相手をさせてもらっている。
それなりに外見も整っていると自負しており、顔合わせした時から自分のペースに持っていくなどお手の物だ。しかも今回はホテルへの出張。
しっかり時間をかけて楽しませてもらう算段であったハズだ。――それなのに
「自分一人で全部出来るなんて、とんでもない自惚れよ。
それよりもっと悪いのは、人に助けてもらうことが当然と勘違いしてる奴よ!!!」
ドアをノックした瞬間に腕を取られ、文字通り部屋に引きずり込まれた。
ロクに顔を見合わせぬまま椅子に座らされるや否や――
「まずは自分の仕事をこなして言えってんのよ!え!?」
マシンガンのような勢いで愚痴を聞かされ、そうして名乗る暇も与えられないまま……
現在に至る。
「人の話を聞いてない!」
ダン!と硝子の卓が割れてしまうばかりの勢いで手にしたワインボトルを叩き付けた目の前に座った女性は、恐らく三十代前半。
薄手のキャミソールから溢れた白い胸、風呂上りなのか少し濡れた髪に赤みのさした頬、ホットパンツから伸びる肉付きの良い足といい眺めは非常に良好ではあるが、何しろ相手の目は恐ろしいまでに据わっている。
かといって下手に目を逸らせば逆鱗に触れることは目に見えている。
俺は一体どうすればいいんだ。
非常にラグジュアリーな室内も、卓上のみならず床に散乱した空のボトルによってほぼ台無しだ。
と、手にしたボトルが軽いことに気づき、
「あっ……お飲み物がなくなってしまいましたね。僕が買って参ります。」
「あら、お気遣いいただかなくとも結構よ」
話に口を挟まれたにも関わらず、彼女は気にした様子もなく微笑んだ。
非常に魅力的な微笑みに、一瞬目を奪われる。
「まだまだあるから、遠慮しないでね」
彼女が指差した先のブツを認め、俺は微笑んだ表情のまま固まった。
気のせいでなく、目の前がくらりと揺らいだ。
まさかワインをダースで持ち込んでるってのか!?
ワインをケースから取り出し、手馴れた手付きでボトルの封を切るとあっという間にコルクを抜いてしまう。
ふわ、と漂う葡萄の香りもすぐに脳髄を痺れさせるアルコールと同化した。
「あなたの2時間は私が買ったのよ、好きにさせてもらうわ」
僅かも酒に酔わされてなどいない声が、耳元で天啓のように響いた
こちらには一分の利もないのだと――知らしめるように