青い。
これだけの空間から垣間見ても、空は青かった。
壮大で雄大な空。
ただ、それだけだ。
彼女が見聞できる空間は、たったこれだけだ。
一面に嵌められた透明な硝子。
叫んでも喚いても音が外に漏れることはなく、叩いても、ましてや爆弾を投げつけたとしても割れることはない。
窓――ではない。最早これは、壁である。
観賞するに、これ以上適したものはないだろう。
「なにをみているの?」
壁際に立って下をみる私に、彼女が語りかける。
振り返ると、私が想像していた通りの笑顔で私を見上げている。
「空を――みていた」
「空を?」
彼女は私の回答がおかしかったのか、くすくすと笑っている。
「なにが――おかしかった?」
「空はみるものではない。そこにあるのだから」
ただそこにあるだけ。
そう言って、彼女はまた笑った。
私には、分からなかった。
この硝子にどのような細工を施しているのだろう。
透明な壁の前にいつもいるはずの彼女は、信じられないくらい白い。
そう、彼女は真っ白だ。
身に纏った服も、艶やかに伸びたその髪も。
その心も。
彼女は知らない。
この空間しか知らない。
独りであることも、知らない。
「それでは――失礼する」
「またいらして」
一礼した私に声をかけて、しかし彼女はこちらをみない。
呆、と壁の向こうに目をやっている。
「いつか、鳥が飛ばないかな」
にこ、と笑った彼女は、その言葉がどれだけの衝撃を私に与えたか、きっとずっと知らないでいるのだろう。
彼女は知らない。
何も、知らない。
オイルを注し忘れて軋む首を、私は少しだけ回した。