人がいっぱい。それが最初の印象。そしてうるさい。
家は道路ばたに立っているから、普段から車とか、さわぐ人たちがいっぱい通るから平気かなって思ってたけど、ただ人がいっぱいいるだけでこんなにうるさいだなんて知らなかった。
胸がざわざわする。それは5日前からずっと。
本当は、もっとうきうきするんだって思ってた。
けど、5日前に、うきうきは全部ふっとんでしまった。
パパもママも、弟たちも泣きどおしで、もちろん私も一緒に泣いた。
それでも、行くなって言われた時が、一番かなしかった。
名誉なことだから、きちんとお役目をはたしてきなさいとおじいちゃんが言ってくれなかったら、私は今日ここには来れなかった。
黄色と赤の、ユニフォーム。
もらった時から枕元に置いて、ずっと楽しみにしていたから。
黒いスーツを着た人に呼ばれて、同い年の子たちと一緒に部屋を出てから、あっと声を出した。
真っ白のユニフォーム。見上げるほど、背の高い人たち。
わっと歓声をあげてそばへ寄って行く子たちの中、私は縮こまって、ただ立ち尽くしていた。
「こんにちは、お嬢さん」
私は、はっと顔をあげた。
整った目鼻立ちをした男の人が、私の目の前にいた。
「こん、にちは・・・」
白い川みたいな色した瞳が、まぁるく笑った。
「緊張しているかい?」
こくんとうなずこうとして、気付いた。
綺麗なポルトガル語。
じっと見つめ返すと、そっと頭をなでられた。
「きっと、君たちを泣かせてしまったと思う。それでも今日、こうしてエスコートしてくれてとても嬉しいよ。ありがとう」
離れていく手を取って、私は心をこめて叫んだ。
「父に恥じない仕事をしたなら、顔を上げていなさい」
おばあちゃんがいつも言っていた。
見守ってくださっている父に恥じないふるまいをしなさいって。
突然息巻いた私に驚いたのか、男の人は目をまたたかせて、それから大きく笑った。
「Danke」
そうして腰をあげた男の人は、本当に背が高かった。
私と目を合わせるために、膝をついてくれたんだ。
差し出された手は大きくて、あたたかかった。
胸がざわざわする。
けれどもう、かなしさはちっとも感じない。
ファンファーレと共に歩き出したその手を、きゅっと力をこめて握り返すと、ゆっくり手を揺らして応えてくれた。なぜだか泣きそうになって、私はたまらず十字を切った。
あなたと、あなたのチームと、あなたの祖国にご加護を
(13.JULY.2014)