また思いきったなぁ
楽屋に入るなり目に入った短い襟足に、はーっと感心の声を上げる。
「ええやん、それ」
カバーのかかった文庫本から顔を上げた男に自分の髪を触ってみせると、ああと合点のいった返答。
「撮影終わったし、もうすぐツアーやから」
いつものように気分転換、らしい。
ツアーグッズ撮影後に髪形を変えるとお偉いさんから叱られるというのに、毎度懲りないチャレンジャーである。
「なんやおれも髪型変えたなってきたな」
「・・・頼むから、間空けてからにしてくれ」
「なんでぇ?」
「二人一緒に変えたら・・・その、」
「何やねん」
口ごもる白いのを急かせば、
「だぁあっ、恥ずかしいからじゃ、ボケっ!」
何でか叱られた。
「笑うなや!」
「笑かしたん、アンタやろ」
色付く頬を背表紙で隠しきれていないのが無性に可愛らしく思えて、こみ上げてくる笑いを抑えられない。
「なあ、」
照れ屋が不貞腐れてしまう前に、今日イチ言いたかったことを口の端に載せる。
「おれ、おたくの短髪すっきやで」
切りたての短い黒髪から覗く白いうなじが真っ赤に染まったのは、言うまでも無い。
(無自覚攻撃が一番効果的)