グロ・流血注意。
※閲覧判断はご自身にて
疲労疲弊が頂点を越えると、精神のどこかが歪に軋むのかもしれない。
代替わり毎に増改築を重ねた広大な屋敷には身を隠すに相応しい部屋が文字通り数え切れぬほどあるというのに、今屋敷の中で正常に息をしているらしい者全員がダンスホール兼客間に集まり、疲労困憊した顔を突き合わせているというのは正に異常な光景だ。
皆、隠れることに疲れ切っていた。
何故なら、我先に身を隠した者からひとり、またひとりと欠けていったのだから。
これが全くの他人同士であったなら、単なる殺し合いで済んだのだろう。
しかし親族となるとそうはいかない。
あの繋がりが、この繋がりが、そうさせたのではないか。
疑心暗鬼に駆られて醜く詰問することも出来なかった。
それぞれに立場があり、家族があり、溝にも捨てられない虚栄心があった。
そうして詰まらぬ小競り合いを続けている間に、扉を開ければ、ふと目を横に向ければ、その先に血の海に沈む人がいるのだ。
駆け寄って揺り起こしても、ひとつの応えも返っては来ない。
犯人を捕まえると豪語した義兄、泣き叫ぶ大叔母、放心したはとこ、皆いなくなった。
そうして"生き延びた"者が、このようにあらゆる覇気が削げ落ちた顔で集まっているのだ。
けれど逃げることは叶わない。皮肉なことに、ここが私たちの"家"なのだから。
指を握り締められる冷たい感触に、目を上げた。
陶器のような肌、細い指。
「由利子・・・」
年の近い従妹は、あまりに酷い顔をしているらしい私に小さく微笑うと、私の左腕に擦り寄った。
大人の傍に寄るのはどうにも恐くて、ずっと二人で時間を過ごした。
普段から口数の少ない由利子は、この異常事態にも精神状態が比較的安定していて、情けない話だが、私が年下の由利子に縋っているような格好である。
緊張のためほとんど寝て居ない頭はずきずきと痛み、目の奥が重たい。
「早く終わってほしい・・・」
我知らず舌にのせた本音に、枯れたはずの涙が滲んだ。
どこへ辿り着けば終わりなのだろう――家の崩壊が先か、己の命尽きるのが早いか。
傍らのぬくもりだけを頼りに、降りてきた瞼に逆らわず意識を失うように眠りに落ちた。
「――ひぃいあああああああ御父さまぁあああっっ!!!!」
凄まじい金切り声に全身がびくりと痙攣し、飛び起きる。
「ああああっっどうして、どうしてぇえええ!!」
「早くロープを切れ!下ろすんだ!!」
恐慌に陥り、身を引き絞るように叫び続ける母を叔父たちが懸命に抑えている。
客間から大廊下を挟んで向いにある、こちらからは見えない御祖父さまの寝室。
全員の目線が天井を向いている――
瞬時に脳裏をよぎったおぞましい光景を振り払うように頭を抱え込んで蹲る。
顔を覆った指の隙間から見えた、何故か離れた場所に立っている小柄な人影。
ああ――
後ろ手に回された、小さく頼りない陶器のような手に禍々しく浮かぶロープ痕。
不意に振り返ったその顔に浮かんだ表情。ゆっくりと開かれた口。
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
私があんなことを言ったから
震え続ける身体は、最早自分の腕で抑えることは出来なかった。