記憶の中の大おばあさまは、いつも静謐な佇まいの女性だった。
「お断り申し上げるが、よろしいか」
人払いされた一室で対面した大王に、私は率直に返答した。
「これは脅迫です。頼み事をする態度ではないでしょう。誘拐坊やにも言いましたが、大祖母からもそちらが実力行使してくるようであれば、丁重に断るよう言付けされています」
「うむぅ・・・」
難しい顔で考え込んだ大王に、私は隠れて溜息をついた。
頼み方も下手で、交渉も下手ときた。こちらは望まぬまま異界へと連れ去られた身なのだ。いくらでも脅し様はあるだろうに、二言目には私の言い分に対する言い訳と謝罪が返ってくる。
誠実と言えば誠実なのかもしれないけれど、どこか間抜けだわ・・・。
「私とリザベス――そなたの大祖母上のことは、聞いているのかね?」
「古い友人、と聞いています」
「友人・・・」
「ええ。そして別れる際、ひとつ約束を交わした、と」
言葉を交わす間、僅かな風に煽られる灯火より頼りなく揺れ動く大王の表情に、かつて大祖母から聞いたもう一つの話が、別の意味を持ちうる可能性に気が付いた。
これはこちらが意地を張っている場合ではないのかもしれない。
と――。
「パパァ!!!!」
地響きのような音と共に、客間へまろび出てきた金色が咆哮を上げた。
「何なんだよっ!これから一ヵ月大人しくしてろって、どういうことだよっ!!!」
びりびりと残響が続く中、大王が椅子から立ち上がった。
「坊主!客人の前で無礼を働くでない!」
「客人・・・?」
忙しなく目を瞬かせた少年は、今ようやく私の存在に気付いたように飛び退った。
「うぉっ!な、何だよ・・・お前、誰だ?」
それはこちらのセリフだ。
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