「真吾、真吾・・・」
居場所が分かっているのに、方々に声をかけてまわる。
最後に辿り着いた小さな一間に、尋ね人は居た。
差し込む西日に表を焼かれた畳にうつ伏せるようにして眠っている。私は、年上だけれどその気性どおり生真面目な硬さを残した頬を眺めるのをひどく好んだ。もちろん、誰にも言ったことはないけれど。
伏した体に寄り添うように横へ寝転ぶと、洋装越しにじわり体温が移る。
起きている間には決してできない事だから、頬が緩むのと比例して手足がばたついてしまう。
「・・・何をなさっているんですか、登和子さま」
「かくれんぼよ。だから動かないでいて頂戴」
案の定起こしてしまった真吾にいけしゃあしゃあと嘘を並べて、旦那さまに叱られても知りませんよとお小言をもらいつつ、もう暫く幸せに浸っておくことに成功した。
「ねえ、真吾」
「何でしょうか」
「私、少し寒いわ・・・」
うつ伏していた顔をひどくゆっくりこちらへ向けた真吾に、私は思わず吹き出した。
くっきりと畳跡のついた顔を見て、笑わずにいられる者がいるだろうか。
笑いを収めることが出来ずにいる私に、真吾は深い深いため息を吐いた。
「本当に貴女は始末に負えない・・・」
「わ、笑うつもりはなかったのよ・・・あははっ」
寒いのならばと差し出された綿入れに袖を通し、今思い出したように声を上げた。
「真吾が贔屓にしている本屋からの言付けよ。注文した品は来週届けますって」
「・・・かくれんぼうではなかったわけですね、登和子さま」
「このわたくし直々の言伝に文句でもおあり?」
「ございません。ありがとうございます」
遠くで鐘が鳴る。
「――お部屋まで、お送りします」
「良いのよ。真吾の午睡を邪魔したのは私なんだから」
にっこり笑いかけると、真吾は黙って首を縦に振った。
「登和子さま」
「なあに?」
見上げる真吾の顔が、逆光でよく見えない。
「次にいらっしゃる時は、少し時間を早めてお越しください」
「・・・? ええ、分かったわ」
あの時は自制心を総動員して己を律したのだと随分後になって夫の口から聞かされ、私は娘時分と同じように声を上げて笑ったのだった。