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古書屋「京極堂」は、未だかつて無い異様な緊迫感に包まれていた。
一方には希臘人形のように容姿の整った長身の男が座り、また一方には、蔵書をすべて焼き尽くされたかのような不機嫌な顔つきで座る着物姿の男が居た。
「お前が言わなくったって、僕にはみえてるぞ」
「ああ分かっているよ」
互いに、普段とは比べ物にならないほど声のトーンが低い。
決して逸らされることのない有無を言わさぬ視線に、本屋の主人が漸く顔を上げた。
「……こうなることは、火を見るより明らかだったんだが」
「だったら言え」
色素の薄い飴色の瞳と、深い闇色の瞳が挑戦的に交錯した。
「これは美由紀君との約束だ。僕の口からは言えない」
悪いな榎さん――。
それは一週間前の出来事。
美由紀が一人で京極堂を訪れた。
――中禅寺さん、お願いがあるのです
「僕に頼みとは?」
「実は、家庭科の授業で編み物をすることになったのです。簡単なマフラーなのですが、出来上がったら……探偵さんに、差し上げようと思っているのです。
そのことを、秘密にしておいていただけませんか?――探偵さんに会ったら、絶対に私がしていることが分かってしまうから――だから出来上がるまでの間、私はこちらに伺うことを控えようと思っているんです」
「そういうことかい」
「お願いできますか?」
「あの馬鹿のことだ、きっとすぐにバレてしまうよ」
「それは分かっています。でも……少しでも秘密にしておきたいのです」
懸命な目で真っ直ぐに見返されて、否と言えるはずはなかった。
そして今日、満を持してというか、予想通り探偵が強襲してきたのだった。
「榎木津さんはお帰りになったのですか?」
庭先で花の手入れを行っていた千鶴子が声をかける。
「ああ。来た時と同じ勢いで帰ったよ」
彼女の頼みを聞いたときから、こうなることは予測済みだった。
それでも引き受けてしまった自分はいつもながら甘い、と京極堂は再度自覚する。
「厄介なことを引き受けてしまったものだ……」
縁側に座った京極堂の横に、柘榴がここぞとばかりに寄ってきてはたかれた。
「美由紀さん、無事に渡せると良いですね」
「彼女は約束を果たす子だから心配いらないだろう」
きっと完成したマフラーを自慢しに来るであろう馬鹿を思い、今日もまた一つため息をつく京極堂であった。
~了~
【Written by Mycontrol】~蛇足~
王道手作りマフラー!冬デスカラ!
きちんと渡せたかは……続きでも書こうかな
それにしても毎度古本屋さんの動かし方がうまくできない……
美由紀ちゃんも榎さんも出番少ないし……あいたた
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