掃除の行き届いた室内
素晴らしく美しい調度品
毎日洗濯される清潔なシーツ
いつも用意されているあたたかい食事
火の絶えることのない暖炉
躾の良いメイドたち
あたしのいる世界
そこに不幸の入る隙間は これっぽっちもありはしない
たとえ一歩 屋敷から踏み出た世界が
貧困と
不衛生と
暴力と
悲哀と
汚濁と
怨恨と
絶望と
殺戮と
闇に覆われていたとしても
かつてそこに身を置いていたあたしにそれらはとても馴染み深くて
目を覆うまでもなく
哀しいまで身をもって知っていることだったとしても
あたしは知らないふりをする
甘いボンボンやチェリーパイに目を輝かせ
芳ばしい紅茶をすすりながら
やわらかくて愛らしいぬいぐるみを抱きしめるの
微笑みながら
お兄様が あたしのために用意してくれた世界に浸るの
穢れも危険も涙もない 完璧な幸せを
あたしとお兄様のまわりには 哀しいことが多すぎる
嘆いても嘆ききれない哀しみで 息が出来なくなりそう
だからあたしは笑うの
涙の代わりに笑顔を浮かべて
お兄様の不安を 少しでも取り除いてあげる
あたしが幸せになることでお兄様に救いがあるならば
あたしはこれからもずっと
貴方の純粋な妹であり続けるから――
だからどうか
お兄様の進む道に――これ以上の涙が流れませんように
~END~
【Written by Mycontrol】~蛇足~
「伯爵カインシリーズ」をご存知でしょうか
“登場人物致死率9割”を誇る少女漫画でございます(いやほんと
初めて読んだときのあの時代錯誤感とあまりの残虐性に目を覆ったのも
今では良い思い出です(ほんとか?
好きなキャラは何があってもめげないオスカー。彼はええ奴です!
連載終わってしまってものすごく寂しいですよ…。
ヒロイン(?)マリーウェザーの独白
小さいながら聡明なマリーは自分を溺愛する兄の本当の気持ちをずっと前から察していると思います。
それを知りながらも騙され続けているマリー。
カインはそんな健気な妹から何らかの救いを見出しているのではないでしょうか。